東京高等裁判所 平成3年(行コ)132号 判決 1992年7月27日
横浜市磯子区森一丁目五番二一号
ヴェルドミール磯子二三六号
控訴人
関澤琴子
右訴訟代理人弁護士
菊池史憲
同
杉浦智紹
同
中野辰久
右訴訟復代理人弁護士
早野貴文
横浜市南区南太田町二-一二四-一
被控訴人
横浜南税務署長 山下光敏
右指定代理人
若狭勝
同
眞室順
同
佐藤謙一
同
津田真美
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が控訴人に対して昭和六二年三月一二日付でした昭和五六年分所得税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
当事者の主張は、次のとおり付加するほか、原判決「事実及び理由 第二事案の概要」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
一 控訴人
原審において、原判決記載のとおり、被控訴人は本件分割協議は換価分割であると主張し、控訴人は代償分割であると主張した。しかるに、原判決は当事者の主張していない「代償分割の合意の不成立」という事実を認定して判決の基礎としており、右は弁論主義違反である。
二 被控訴人
仮に本件分割協議における控訴人の意思が代償分割であるとすれば、協議は無効または不成立と解すべきこととなって、本件借地権は遺産共有状態で譲渡されたというべきであるから、信衛単独所有の状態で本件借地権が譲渡されたものでないことは明らかであって、本件決定処分は適法である。
第三証拠
証拠関係は、原審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 当裁判所の判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決「事実及び理由 第三 争点に対する判断」欄の説示と同一であるから、これを引用する。
1 原判決二六枚目表七行目の「課税庁の不手際によって」を「課税庁が所得税等の決定通知書を郵便により発送したが、その到達が遅れたため」と訂正する。
2 同二一枚目裏一一行目から二二枚目表一行目及び二八枚目表一一行目の「医療機器株式会社及び玉川医科器械株式会社」を「医療器株式会社及び玉川医科器械工業株式会社」と訂正する。
3 同二九枚目表一一行目の「代償分割の趣旨で」を「信衛が本件借地権を単独で取得し、控訴人は代償金を取得する旨の」と訂正する。
4 同三〇枚目表四行目の「このような経過を踏まえて」の次に「信衛、信義及び幸枝の登記名義になっている狛江、鵠沼の各物件は各名義人の所有とし、遺産分割の対象から外し、残った主たる遺産である本件借地権について、」を加える。
5 同三一枚目表五行目の「同人にこれを」から同七行目末尾までを次のとおり訂正する。
「当時、同人はその経営していた前記東京医療器や玉川医科器械工業が倒産し、多額の負債を抱えており、資金を必要としていたところ(甲三六)、次に認定するように、もし同人が本件借地権を単独相続して直ちにこれを売却し、他の相続人に約束の「代償金」を支払うとすれば、ひとり多額の税金を支払うだけの結果となるにもかかわらず、あえて同人がこのような方法を選択したことを首肯するに足りるだけの理由も見当たらない。」
6 同枚目裏六行目の「しかるに」から同七行目の「言及するところがない。」までを「信義に支払われるべき七、〇〇〇万円は、実質上信衛が取得することになっていた(甲三二)としても、なおかなりの持ち出しになる。ところが、本件分割協議に際し、右信衛の負担すべき税額がいくらになるかを具体的に話し合ったことはないし(乙六)、もし信衛に右のような多額の税金を負担させるだけの結果となるような合意をしたのなら、後の争いを防ぐ目的で念のためなんらかの形で書面化するはずのところ、本件分割協議書は、右につき全く言及するところがない。」と訂正し、同一〇行目の「右譲渡所得税等」から同一一行目の「いたとしても」までを「右譲渡所得税等を信衛一人に負担させようと考えていたとしても」と訂正する。
7 同三三枚目表四行目から五行目にかけての「限らない」の次に、「(即ち、信衛登記名義の狛江の物件は時価合計五、六〇〇万円、幸枝登記名義の狛江の物件は時価合計九、八〇〇万円、信義登記名義の鵠沼の物件は時価合計三億八、九〇〇万円であるから(甲二七ないし二九)、信義らも当然前記所得税を負担するはずである。)」を加え、同枚目裏五行目冒頭から同三四枚目裏八行目末尾までを次のとおり訂正する。
「4 結局、右各事実を総合すると、本件分割協議においては、狛江及び鵠沼の各物件は各登記名義人の所有とし、残った遺産(主たるものは本件借地権のみ)を分割することにしたこと、本件借地権については、本件分割協議が成立した時、既に三井不動産を買主として売却の合意が事実上成立していたものとみられ、三井不動産から譲渡人は単独名義にするよう要望があったので、形式上信衛が単独相続したことにし、その代金から必要経費等を差し引いた額を代償金の名目で各相続人に分配することにしたこと、控訴人に支払われた一億五、〇〇〇万円は右の売却代金額に基づいて決定され、分割協議書作成と同時に控訴人に支払われていることを考え合わせると、本件分割協議は、分割協議書の文言にかかわらず、既に売却が決定していた本件借地権の代価を分割する趣旨でなされた実質上換価分割であるとするのが相当である。」
8 同三五枚目裏九行目の「三一条四項」を「三一条二項(昭和五七年法律第八号による改正前のもの)」と訂正する。
9(当審における主張に対する判断)
控訴人は、「原判決は、「代償分割の合意が有効に成立していない」という事実を認定して判決の基礎としているが、右事実はいずれの当事者も主張しておらず、原判決の認定は弁論主義違反である。」旨主張する。
しかしながら、原判決は単に代償分割の合意が有効に成立していないことを判決の基礎としたのではなく、信衛の意思は確定的に換価分割であり、代償分割ではないから、本件遺産分割協議は代償分割ではありえないとし、控訴人、信義、幸枝及び三枝の意思が信衛の意思と合致しているなら換価分割の合意が成立しており、仮に意思の合致がないとしても本件借地権が共有状態で譲渡されたことになり、信衛が単独取得したうえ譲渡したことにならないとしているのであるから、弁論主義違反はない(なお、被控訴人は当審において右原判決と同趣旨の主張を追加している。)。
二 以上によれば、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 川上正俊 裁判官 谷澤忠弘 裁判官 松田清)